プロローグ
何も見えない、何も聞こえない。
世界はいつも黒いまま。目を開けているのか、閉じているのか、この闇の世界ではわからない。私は何かを見ているのだろうか。
あやふやな世界。存在すら曖昧で、夢現の間にいるよう。まるで胡蝶の夢。
だけど、苦しいのは確かなこと。それだけははっきりしている。不安、焦燥、嫉妬、憎悪、悪意、煩悶などが心を蝕む。どこからこれらは生まれるのか。私の中からだろうか、それとも周囲によるものなのだろうか。私がこうなってしまったのかすらも、時々思い出せなくなっている。
無間地獄。奈落へと落ち続けているかのような苦しみ。身は腐り、蛆が湧き、それすら滅して骨となり、砕け、灰や塵になろうとも苦しみは存在する。永遠の連鎖として残り続ける。私だけなのか、皆がそうなのか……。
何のために生まれてきたのだろうか。何のために生きていくのだろうか。
深海よりも暗い場所で、不意に思う。終わり無き闇を抱えているのは、何のためにと。光はきっと届かない、私に降り注ぐことは無い。得られぬものを羨望するのは、人としての防衛手段だろう。希望、とでも言うのだろうか。
それが運命。人の悲しみ幾千億、それらを抱え、撫でさする。涙する。朽ちた彼の身、崩れし我が身。いずれ同じ場所へ辿り着く。平等な世界へ歩く我らに違いは無い。仲間入りの時は、意外に近いだろう。
それでも、決して捨てはしない。
この身に光射さなくとも、苦しみの環から抜け出せなくとも、いつか光り溢れる地にいけると信じている。信じていないと耐えられない。今は生きることが私の宿命。耐えることが人生。叶わぬまま朽ち果てるかもしれないけど、全てを捨てた先にはどんな道も作られない。私はまだ、明日を夢見る。光を望む。
闇の中そっと手を組むと、音がした。
けれど、それもすぐに闇に飲み込まれてしまった……。
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