ある一日の風景

「はぁ、どうしよう……」
『蜻蛉』の成功は嬉しいんだけど、こうも仕事が増えると正直言って辛い。
 今月中に短編二本、そして次の長編のプロットを仕上げなければならない。長田は喜ぶべきことですよなんて言ってるけど、書く方の身になれよな。
 ぶつぶつ文句をたれていると、襖が開いた。
「先生、麦茶をお持ちしました」
「ありがとう」
 一口飲んで、大きく溜め息をつく。
「何だか、お疲れのようですね」
「仕事がいっぱい入ったからな」
「少しお休みになった方がいいですよ」
 そっと渚は冬馬にしだれかかる。
「おい、渚」
「お仕事に精を出すのはいいことですけど、がんばり過ぎてお体を壊したらダメですよ」
「わかってるよ、でもな」
「先生はお疲れです」
 渚が冬馬を抱き締める。
 ……ったく、しょうがないな。
「だったら、どうしたらいい?」
「うさぎさんを見に行けばいいですよ」
「却下」
「あぅ、ダメですか」
「余計に疲れるよ」
「では、どうしましょうか」
「……そうだな、じゃあこうしよう。今日は俺も渚も一生懸命に仕事して、明日を休日としよう」
「お休み、ですか」
「そう。どこへ行くのもよし、家でゴロゴロするのもよし。さあ、渚はどうしたい?」
「えっと、先生におまかせします。でも、そう言えば明日のお天気は晴れでしたね」
「じゃあ明日はどこか行こうか」
「はい」
 この笑顔がある限り、渚が側にいてくれる限り俺はがんばれる。
 守るべき存在がある限り、前に進める。
「渚」
「何です?」
「明日は晴れるといいな」
「えへへ、きっと晴れますよ」
 その笑顔を受け、俺はペンを取った。
 明日のために。
 そして、終わらせないために……。